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室﨑先生 × 松尾理事長対談

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室﨑:私は100パーセント完全なものを最初から目指す必要はないと考えています。できること、気が付いたこと、どんなことでもいい、できることをできる形にする。それで十分な計画なんです。私は、最初は紙切れ一枚でもいいと云っています。初めから完全なものじゃなくて、徐々にステップバイステップで、よりいいものにしていくという、そのプロセスが重要なのです。
例えば,避難所ができて、1日目の食事はどうするのというとき、行政からおにぎりが来ないときにどうするのかという場合の避難所の献立計画を作りましょうと、それをやるといろいろな意見が出てくる。それでいろんな計画ができるんですよ。それは行政ではとてもできない。行政では考えられないいいことが地域の実情を知っているからこそできるんですね。そこがとても重要な意味があると思っています。
もう一つは、避難の際どう避難するかというときに、自動車も使えるんじゃないかとか、リヤカーも使えるんじゃないかとか、いろんな意見が出てくるんですね。自動車を使うなんてことは、行政では発想できない。でも、このおじいちゃんとおばあちゃんはどう避難させようかとなったときに、車だったらワゴン車に5人は乗せられる。このワゴン車だけは使っていいことにしよう。その代わり他の人は一切車は使わない、そういう約束をしないといけない。そういうことも、特定のこのおじいちゃんおばあちゃんは一体どうするのかっていう話が、地域ならできる。そういう地域の実態に沿った細やかな計画が作れたら、これがまさに地区防災計画です。だから、行政の地域防災計画で決められないこと、もしくは不十分なところを地区防災計画で補うのだということが重要なんです。
それでは、いつの段階で計画提案をするかです。ある程度まとまったところで出すということもあるので、少し温めてからとか、十分検討してからという、そういう時間は必要です。
それから、もう一つ、提案制度はどういう意味を持っているのかです。重要なことは、共助と公助の連係プレーということです。共助というか、市民が一生懸命やろうとしていることと、公助は後ろからちゃんと背中を押す、その押す責任みたいなものですね。行政と連携する前提のもとに市民が自由に動くんだという、こういう関係がとても重要です。

松尾:また、現場からは地区防災計画書のひな型を示してくれという要望が強い。それで、そんなことより皆さんでしっかり地域の特性を生かした、形式にとらわれない自分たちの計画書を作ってみてくださいと云っているですが、現場ではやはり形式を気にして、とても難しく考えている。どこかの行政が作成した計画書があるというので参考までに取り寄せてみると、何十ページもの分厚い計画書がなんですね。たまたま本部に来た支部長に見せたら、とてもそんなものは作れないと云うんです。

室﨑:それも、とっても重要なポイントです。たとえば消防庁が自主防災の手引を作りまして、こういう項目をこういうふうに作りなさいといって、班の構成から全部書いてあるんです。それで、それを見てみんなその引き写しで、それはその方が速く広がります。だけど本当にそれが、それぞれのコミュニティの力になっているかというと、そこで議論も何もないわけですよ。だから、ただそういう形でやると数だけ増えるけどやっぱり中身が伴わない。模範解答っていうか、こういう形の計画にしなさいというような、一つのモデルプランは示さないようにしよう。そして、みんなで好きなようにやろうと。好きなようにやったものをお互いに交流することで、いいものは学ぶ。そういう意味で云うと、防災士会の皆さんが、いろんな地域のここでこんなのがあるよって、情報を流していただくのはとても大切なことなんです。100のコミュニティがあると100通りのやり方があるので。だから、自分たちで自分たちの思いを形にする。自分たちで知恵を出し合って議論をして、うちはこういうやり方をしようっていうふうにして決める。その決めるプロセスが重要なのです。

松尾:国のガイドラインを見ますと、地区防災計画制度の基本的な考え方はボトムアップ、即ち住民参加型ということですね。これもやはり現場からの話ですけれど、住民参加とは、住民のどれくらいの人が参加をしたら住民参加といえるのか。例えば皆さんにこういう検討会をやります、ワークショップもこうしてやりますよと呼びかけるけれど、なかなか人が集まらない。そうすると、どうしてもその地域の代表の人とかボランティアの代表の人とか町会の責任者だとかを集めて、そこでワークショップをしながらやっていく。それも住民参加型の一形態というふうに考えているのですがいかがでしょうか。

室﨑:そこも、とても難しい問題です。やはり総意を集めるってことを大切にするんです。
みんなのふるまいを地区防災計画として決めるわけですから、ある程度拘束するし義務化する。例えば避難するときには黄色いハンカチをかけましょうと決めると、みんなそれをやってもらわなければいけない。そのためには、もう少数の者だけでそう決めましたではいけない。最終的にはみんなが参加する、少なくとも過半数の人たちが、その計画を一応理解する、認めるって形を作らなければいけない。
そういう関係の作り方はいろいろあって、今云われたように民生委員とか自治会長クラスの人たちがまず一緒に繋がるところからスタートする。そういう意味で云うと、自治会長さんや区長さんの役割がとても大きいんです。そういう人たちは、いろんな関係の人や団体との繋がりがある。そういう人たちも集まって、しっかり議論をするということです。
そういう動きの中で、いろんな企画をすると、また自然と人が集まってくるんですよ。こうして、できるだけ多くの人に理解を求めていく。仮に地域全体がまとまらなくても、地区防災計画はそのうちの小さな自治会だけでも、マンションだけでもいい、利害関係が一致する人たちだけで計画を決めるってこともあり得るし、小さな単位からそれを広げていくっていうことだってあるんです。作り方はいろいろですが、一番重要なことはやはり勝手にではなく、みんなの気持ちを一つにすること。それはとっても大変ですが、私はむしろ防災だからできるんじゃないかなと思っているんです。

松尾:わかりました。それともう一つは今活動単位の話が出ましたが、私もここ何回か地区防災計画学会に出させていただいて事例報告などを聞いておりますと、数万人規模の組織をまとめているとの話があります。数万人規模の組織だと、計画を作るのも大変ですが、それを維持するのに大変なエネルギーが必要ですし、強力なリーダーがいないといけない。これはとても真似できないと思ったりします。私ども日本防災士会の活動理念に照らせば、防災士個人の活動に期待していますから、個人の力にはやはり限界があります。そこで、会員は居住者の一人としてその地域のいろいろな活動をやりながら、そこで防災リーダーとして、まずは、いわゆる向こう三軒両隣の小さなコミュニティから始めることを基本に考えているのですが。

室﨑:いいと思いますね。ご存知かもしれませんが、相模原市の光が丘に大きな団地があります。ここは防災士がそれぞれ頑張っていて、防災士の中のネットワークでもう一つ上位の機関を作り、それで光が丘の何万という大きな団地が一つになって動くんです。基本的には小学校区単位ですが、小学校区の中に小さな自治会があって、そこに全部防災士が頑張っていて一つの司令部を作り、その集まりが小学校区単位の司令部になっている。だから大きなところも、やっぱり小さな単位から始まって、それを横につないで、小学校区だとか、もうちょっと大きな単位とかになっている。つまり、団地の中で一つひとつの住棟にまずそういうものができ、更に団地全体で共通することについては、それを横につなぐ。その時に防災士がものすごい役割を果たしているんですよ。

松尾:そうですね。私どもの地区防災計画推進の柱は、そういう小さい自治会、町内会、マンション単位の自主防が対象です。その核は防災士ですが、防災士といってもなかなか一人では限界がありますので、近隣の防災士同士が連携する。例えば、あちらの自主防が訓練をするときはこちらから応援にいくなど。そういう一つひとつの枠組みが横につながって、一つの地域だとか学校区だとかに拡大していく、そんな構想を描いています。